誰もがやさしく微笑みあえる、その日まで

東日本大震災で被災された方々、心を痛めた方々に送ります。 もし自分が被災していたら、という視点で書いた小説(フィクション)です。完結済みです。"カテゴリ"からお読み下さい。小説以外は、"カテゴリ"の【小説以外】からお読み下さい。

前書き


 被災地には継続した支援が必要です。

 私は関東近郊の町で東日本大震災を体験しました。震源地から遠く離れていたにもかかわらず、2~3分近く大きく揺れました。震度5弱でした。こんなに長い時間大きく揺れる地震は初体験でした。震源地が遠く離れた三陸沖と分かったとき、これはとんでもない地震だと直感しました。震源近くだったら・・・、ゾッとしました。仕事場から避難した後、携帯電話で地震のニュースを見続けました。川を逆流していく津波の映像が流されていました。津波は、砂を、泥を、あらゆるものを巻き込んで、真っ黒に変色していました。猛スピードで進み、堤防を越え、畑を、ビニールハウスを、道を、車を、住宅地を、そして人を飲み込んでいきました。映像の中の非現実的な世界。悪夢としか言いようが無い世界。私は、地震後、何度もニュースを見聞きしたが、現実として受け止めることが出来ませんでした。現場に行かなければならない、そこで何が起こったのか体感しなければならない、その想いが日に日に強くなりました。


続きを読む

テーマ:災害ボランティア - ジャンル:福祉・ボランティア

§1-1:焚き火


 私は寒さに震えながら焚き火を見つめている。季節は冬から春への変わり目。とはいえ、雪もちらつく冷え込んだ深夜。携帯電話を見ると、時刻は23時25分。相変わらず、電話の着信も、メールの着信も無い。父と母は無事なのだろうか?

 私は海も街も見える高台にいる。5つある焚き火の周囲には100人くらい集まっている。老人、小さな子供、怪我人は、近くの民家で休ませてもらっている。外にいるのは、比較的体力のある大人や若者達。

 私は疲れ、眠く、緊張し、不安で、空腹で、悪寒を感じている。神経が落ち着かない。眠れそうにない。周りを見る。知り合いと焚き火を囲んで話している人。膝を抱えて座り、膝の間に顔を埋めて休んでいる人。立ったまま火に手をかざしている人。ぼんやりした表情で火を見続ける人。焚き火から離れて街の方を見ている人。昼から夜にかけて動き回ったせいで、どの顔にも疲労がにじんでいる。それでも、みんな眠れそうにない。

 私は焚き火を見続ける。ほんの数時間前のことを考える。生死を分けた時のことを。みんな必死になって逃げた。そして、破壊の時が訪れた・・・。

テーマ:災害ボランティア - ジャンル:福祉・ボランティア

§1-2:地震


 2011年3月11日午後2時46分、三陸沖を震源としたマグニチュード9.0の巨大地震が発生した。地震発生時、私はコンビニでアルバイト中だった。パンを棚に並べていると、始めは小さくカタカタと、次第に大きくガタガタと、コンビニ全体が揺れた。いきなり照明が消え、店内が薄暗くなった。次々に、パン、お弁当、惣菜、お菓子が床に落ちていく。酒瓶が落ちて割れる。陳列棚が動く。私は被害を最小限に抑えようと、近くの陳列棚を押さえ続けようとしたが、逆に棚にしがみついて自分が倒れないようにするのに精一杯だった。揺れは、3分近く続いた。揺れが収まったあと、周囲を見た。田中さんがレジカウンターの下からゆっくりと顔を出した。店の奥からは、店長が出てきた。店の中にはお客さんが3人いた。


テーマ:災害ボランティア - ジャンル:福祉・ボランティア

§1-3:地震直後


 「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」私はお客さんに声をかけて回った。幸い、怪我も無く無事だった。店の扉は問題なく開いた。外の様子を見ると、道路の一部が陥没しているが、車は無事に走れそうだ。道路沿いの建物は、壁に一部亀裂が入っているが、倒れてはいない。お客さんを店外に送り出し、店の中に戻ると、店長と田中さんが話をしていた。

 「高野君、怪我してない?」店長が私に声をかけた。
 「大丈夫です。店長も、田中さんも大丈夫ですか?」
 「私も田中さんも問題ないよ。お店の方は問題だけどね。あーあ、こりゃひどいわ。」店長はそう言って、店内を見渡した。天井、照明、ガラス窓、陳列棚、あちこちが壊れている。
 「どこから手をつけようか。危なそうなところがいろいろあるし。一回お店を閉めて、後片付けしよっか。」私と田中さんはうなずいた。
 「それじゃ、高野君は僕と一緒に力が必要なところを直そうか。田中さんは女性だから力がいらないところを片付けてくれるかな。床に散らばったガラスとか。手を切らないように気をつけてね。始めよっか。」店長は腕時計を見て、もう一度店内を見渡し、紙に何か書いて、入り口のドアに貼り付けた。

”本日 14:50~17:00 
 地震の後片付けをしております。
 その間、閉店いたします。
 ご迷惑をおかけします。”

 紙の裏から、そう書いてあるのが見えた。後片付けに2時間か。父さんと母さんは大丈夫かな?心配になった。
 「店長、すみませんが、ほんの少し時間もらえないですか。家族の安否確認をしたいので。」私は言った。
 「そうだね。かなり大きい地震だったし、心配だよね。10分くらいでいいかな?」店長は私を見て言った。そして、田中さんにも声をかけた。
 「田中さん、ご家族と連絡とらなくて大丈夫?高野君には10分くらい時間あげるけど。田中さんもどう?」
 田中さんは、ほうきとちりとりを持って、後片付けにかかろうとしていたが、店長の方に向き直り、答えた。
 「さっきから、気になっていたんです。家に電話してもいいですか?」
 「もちろんいいよ。僕も家族に電話したいし。」そう言うと、店長は店の奥に携帯電話を取りに行った。田中さんも、ほうきとちりとりを床に置いて、店の奥に行った。

 私は店の外に出た。道路沿いには何人かいて、辺りの様子をうかがっていた。私は、ジーンズの前ポケットから携帯電話を出し、家に電話をかけた。母がいるはずだ。10回以上コール音がしたが、つながらなかった。母と父の携帯電話にもかけたが、やはりつながらなかった。
 店長と田中さんも外に出てきた。二人とも何度か電話をかけ直しているが、うまくつながらないようだ。


テーマ:災害ボランティア - ジャンル:福祉・ボランティア

§1-4:防災無線


 その時、拡声器の音を耳にした。町の防災無線だ。音が散らばっている感じがして聞き取りづらい。耳を凝らして聴く。
 「ただいま、大津波警報が発令されました。予想される波の高さは、3メートルから5メートルです。海のそばにいる方は、いますぐ高台に避難してください。繰り返します。ただいま、大津波警報が・・・。」

 大津波?私は、ひるんだ。さっきの地震を思い出す。そういえば、今まで私が体験した中で、一番大きな揺れだった。上下前後左右あらゆる方向に大きく揺さぶられた。直感的に、すぐに逃げた方がいいと感じた。私は携帯電話を見た。14時55分23秒。防災無線は大津波警報を町民に知らせ続けている。私は店長に言った。
 「店長、今すぐ逃げた方がいいと思います。地震があったのが2時45分くらいで、もう10分立っています。ここから高台の神社まで結構距離があるから、走って5分、歩いて10分かかります。今すぐ逃げましょう。」
 店長は腕時計を見て考えた。店を見る。私と田中さんを見る。少し迷ってから答えた。
 「分かった。避難しよう。みんなで一緒に行こう。」
 店長はそう言うと、ズボンのポケットから店の鍵を取り出して、鍵をかけようとした。
 私はサッと身の回りをチェックした。携帯、財布、家の鍵、大丈夫、ある。ふと、外の寒さに気づいた。気温は氷点下ではないが、雪が降ってもおかしくない寒さだ。自分がコンビニの制服の上に何も着ていないことに気付いた。
 「すみません。今すぐと言いましたが、コートだけ持って行ってもいいですか?外はかなり寒いので。」
 「そうだね。持って行った方がいいね。一応、貴重品も持っていこうか。」
 店長は、一度閉めた入り口を開けた。私達は急いで店の奥に行った。私は自分のコートを腕に抱え、すぐに外に出た。膝まで隠れる、ぴったりしたコートだ。ボタンを全部締めると、腕が動きにくくなる。軽くコートをはおるだけにとどめた。



テーマ:災害ボランティア - ジャンル:福祉・ボランティア

次のページ

FC2Ad

FC2ブログ(blog)